研究概要 |
走査型トンネル顕微鏡(STM)は、トンネル電流を利用した原子レベルの高分解能を持つ表面分析だが、化学種選択性が得にくい弱点を持つ。本研究室では電気化学における電子移動反応とSTMにおけるトンネル効果の原理的な類似点に着目し試料と水素結合可能な部位を有するチオール誘導体を化学修飾したSTM探針を用いることで試料分子の水素結合性官能基が明るく観察されることを初めて見出し、STMの化学修飾探針による化学種認識が可能なことを示した。本年度はこれを以下の二つの点で発展させた。 1)金属配位子の配位能の違いを用いた金属種識別試料としてさまざまな中心金属を持つポルフィリン錯体を合成して用い、探針は中心金属と配位能を有する物質4-mercaptopyridineで化学修飾したものを用いる。測定の結果、」Zn(II),Ni(II)錯体では、未修飾探針では金属中心部が凹んで観察されたが、修飾探針では金属中心が突起して観察された。一方,Mg(II)錯体は未修飾探針、修飾探針の観察でいずれも中心部が凹んで観察された。この相違は金属と配位子の配位能の違いで、このことから中心金属部分が修飾探針により識別できることを示した。 2)分子の配座解析分子内に2種類のエーテル酸素原子を持つジエーテル分子をエーテル酸素原子と水素結合を形成できる4-mercaptobenzoic acidで修飾した探針も用いて観察した。そのSTM像においては2種類のエーテル酸素原子がともに明るく観察されたが、一方が他方よりも明るかった。試料の2つのエーテル酸素原子は基盤に吸着したときに、一方が他方よりも探針上の修飾分子とより強い水素結合を形成し、この水素結合の強さの違いがSTM像に反映されたためと考えられる。このことから化学修飾探針により酸素原子の不対電子対の向き(ジエーテルの配座)を区別できることが示された。
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