哺乳動物の遺伝子地図を比較すると、染色体は大きなバンド・レベルの保存的領域(遺伝子群)の多様な組み合わせであることがわかる。すなわちゲノム進化は、遺伝子レベルでの変化と同時に、染色体レベルでの大規模な変化により生じているといえる。こういった染色体領域のなかで、種特異的なものを探索することが本研究の目的である。このために、本年度は保存性が高いといわれる遺伝子密度が高い染色体部分の霊長類における比較検討を行った。また、逆に進化速度が速い反復配列DNA領域についても重点的に調べることとした。(1)そこでまず、遺伝子密度が高いヒト第11番染色体短腕末端の11p15領域をモデルとして、コスミド・クローン26個を用いたゲノム構成の解析を行った。そしてそれらクローンをチンパンジー、オランウータン、カニクイザルの染色体上にマップし、位置の比較を行った。その結果、この領域の構成をヒトと比較すると、チンパンジーでは同一であるが、オランウータンとカニクイザルでは、逆位による染色体再構成点があることがわかった。(2)ヒト由来の遺伝子のcDNA多数について、高精度分染バンドを示すヒト染色体上に正確にマップした。そして他の霊長類染色体での相同遺伝子の位置の比較を行い、ペインティング法では検出不可能な小さな領域に関する遺伝子の並び方の相同性(synteny)関係について調べた。(3)霊長類の反復配列DNAの代表的なものがAluとL1ファミリーである。そこで各々をフルオレセインあるいはローダミンで標識し、比較ゲノムハイブリダイゼーション法の変法により種差を分析した。(4)一方、種特異的なサテライトDNAの分布とその周辺の遺伝子構成について比較検討した。
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