ヒトゲノム解析も、全塩基配列の概要が報告され、新たな段階を迎えた。遺伝子の機能解析とともに、ヒトの生物学的特異性を追求することが重要な研究項目として取り上げられるようになった。ヒトの特異性を知るうえで、もっとも近縁のチンパンジーなどとの比較が重要である。通常、遺伝子の塩基配列レベルでヒトとチンパンジーとは極めて高い相同性を示すと説明されている。しかし、もっと巨視的に見た染色体レベルでは大きな種差がある。本研究では、比較ゲノムハイブリダイゼーション法を改良した蛍光in situ hybridization(FISH)法により、種特異的な染色体領域を検出することを目的とした。ヒト、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンのゲノムDNAを標識し、ゲノム中に多量に存在する反復配列DNAによるsuppressionの程度を変化させ、種特異的な反復配列領域の種類と分布を明瞭に検出することが可能となった。 さらに、よく知られているヒト第2番染色体の染色体再配列領域約4Mbについて、この領域から得られたコスミドクローンのオーダリングによる比較解析を行った。その結果、チンパンジーの第12、13番染色体型の祖先型染色体がテロメア近辺で直列融合し、テロメア特異的反復配列が対向した形で残り、その周辺のゲノム構造は変化を起こさずにヒト型染色体になったことがわかった。この領域のテロメア特異的反復配列のコピー数には個人差、集団差があることを見い出した。
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