軟X線蛍光顕微鏡は軟X線または電子線を試料に照射し、それに含まれる原子から放出される軟X線蛍光をシュワルツシルト対物鏡で結像することによって、原子の種類の情報も含んだ試料局部の拡大像を得る新しい方式の顕微鏡である。多層膜の狭帯域反射で原子の種類を感度よく識別して結像するという本顕微鏡の基本的な特徴を前年度に実証したのに基き、今年度は本研究の最終年度として、先ず分解能を向上させた。試料ホルダーを剛性の高いものに全面的に改良するなどして分解能を1μmに近付けることができた。また、多層膜対物鏡は軟X線と同じように可視光も反射することから、テスト試料を可視光で照射して可視用のCCDカメラで撮影した結果、0.7μmの分解能が確認できた。これはほぼ可視光の回折限界に達しており、顕微鏡が高精度で調整されていることを示している。波長の短い軟X線で0.7μmを超えられなかったのは軟X線検出器自身の分解能不足が原因と分かった。また、5μm幅のSiO_2のパターンが刻まれたテスト試料を30nmのMo薄膜で覆ったものについて電子線照射によってSi L 蛍光像を観察した結果、覆う前と同じような像を観察することができた。この結果は、軟X線の透過距離が長いので、バルク内部の状態が観察できるという著しい特長を実証したことになる。このように、本研究は検出器の分解能という2次的な要因で制約を受けたが、目標とした基本性能を概ね確認して終了することができた。これらの成果は3月にシャモニー(仏)で開催される多層膜物理学の国際会議で招待講演として報告する予定である。
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