研究概要 |
1.チャック可能なバルク材に貫通穴を開けたものを試験片母材とし,この貫通穴を覆うように膜材を接着し,母材に繰返し応力を負荷する疲労試験法を提案した.この方法により,母材穴部を介して膜材に繰返し変形を与えることができるので,従来きわめて困難であった膜材単体の疲労試験が可能となった.このときEshelbyのだ円体介在物理論より,膜材中の応力は従来行われてきたバルク材と同様に一様応力分布となるので,材料の薄膜化に伴う疲労特性の変化を,バルク材の疲労特性と比較することが可能となった. 2.厚さ100μmの冷間圧延された純鉄膜材を1173Kで1時間真空焼なましを行い,負荷方向が圧延方向と平行な場合と直角な場合の二通りの疲労試験を行った.その後,き裂周辺の結晶粒の方位を電子線後方散乱回折装置を用いて解析した,その結果,負荷方向が圧延方向と平行な場合には,き裂は比較的ランダムに配向している結晶粒中を伝ばし,き裂周辺に多くのすべりを残しながら,屈曲を伴って伝ぱしていた.これに対して,負荷方向が圧延方向に直角な場合には,き裂は比較的一定方向に配向している結晶粒中を,あまりすべりを残さずに直線的に伝ぱしていた.これにより,負荷方向が圧延方向に平行な場合の方が,直角な場合よりもき裂伝ぱ速度が低下することがわかった. 3.材料開発への膜材の応用例として,膜材をバルク材表面に接合した膜接合材を作製し,疲労き裂伝ぱ特性を調べた.厚さが100μmと等しく,熱膨張係数が異なる工業用純鉄および純銅の二種類の膜材を,加熱・冷却を伴う拡散接合およびエポキシ樹脂接着の二通りの方法でS45C母材に接合した.これらの疲労試験結果より,膜と母材の中間に樹脂層が存在するエポキシ接合材の疲労寿命は母材単体や拡散接合材と比べて増加した.特に,膜上に圧縮残留応力を有する鉄膜のエポキシ接合材は,引張残留応力を有する銅膜の場合と比べて疲労寿命増加の効果が著しく,膜上の圧縮残留応力が接合材の疲労き裂伝ぱ特性の改善に大きく寄与することがわかった.
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