研究概要 |
耐転動疲労損傷性および耐摩耗性がパーライト鋼とベイナイト鋼で異なる理由を,転動面の機械的特性の変化および耐繰返し衝撃損傷性に注目して検討した.まず,硬さがほぼ等しいパーライト鋼(HV265)とベイナイト鋼(HV276)の転動面の変化をビッカース硬さ試験で評価した.硬さ自身の変化にはパーライト鋼とベイナイト鋼で大きな差異は認められなかった.ただし,圧痕の形状は,ベイナイト鋼では圧痕周辺の最大盛り上がり高さに非転動面と転動面で大差が無いのに対し,パーライト鋼の場合,測定荷重9.8Nでは大差が生じなかったものの,測定荷重1.96Nでは転動面に付与したものは非転動面に比べて最大盛り上がり高さがかなり減少することが明らかとなった.この結果は,パーライト鋼の方が転動面の極く表層の加工硬化の程度が大きいことを意味しており,転動面の機械的特性の変化は応力-ひずみ線図の形態によって評価可能であることが判明した.次いで,上記材料に直径12.7mmの鋼球を100万回繰返し衝突させたところ,形成された圧痕の大きさはパーライト鋼の方がベイナイト鋼よりも30%程度大きくなった.衝突回数を変化させた実験,静的押込み試験および有限要素弾塑性解析を通してこの原因を検討した結果,耐損傷性には材料の硬さのみならず,降伏応力や加工硬化指数などの機械的特性も大きく影響することが明確にされた.これらの成果は,直接レール製造に反映されるものと考えられる.また,実軌道におけるベイナイト鋼レールの敷設試験を実施中である.すなわち,ベイナイト鋼レールでは,現行のパーライト鋼でダークスポット損傷が顕在化する累積通過トン数1.5億トンまでは,ダークスポット損傷を初めとする転動疲労損傷の発生が認められないことが確認されている.現在,累積通過トン数3億トンまでの評価が進行中である.転動疲労損傷の発生は認められず,開発レールの耐ダークスポット性は良好である.
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