研究概要 |
工業装置や自然界の実環境下にある実在表面は,実験室の清浄な光学鏡面とは著しく異なり,表面にはミクロなあらさがあり,その表面はなんらかの被膜で覆われているのがふつうである.加えて,その表面状態は実環境下で時々刻々にも変化する.また,積極的に表面状態を変化させる表面の物理・化学プロセスも実用化されている.このような実在表面について,その熱ふく射特性を伝熱の評価のために明らかにし,あるいは,ふく射を応用する表面状態診断法を確立するには,分光学的な手法を検討するのが望ましい.本研究では,第1に,近紫外から赤外にいたる0.35〜5.5μmの広い波長域のスペクトルを1台の装置で繰り返し測定できる高速スペクトル測定装置の開発を展開しつつある.本年度には,どくに測定の波長域を赤外の長波長域に拡張するため,光学系と電子回路部の充実に努めた.第2に,この装置を用いて,高温大気酸化過程にある金属表面の時々刻々に変化する表面の反射・放射スペクトルの推移を調べる実験を行った.表面酸化と表面被膜の結晶粒の成長にともなうふく射の干渉・回折現象が規則的に生起・推移することがわかった.この現象に注目して,第3に,そのような実在表面の温度と性状を時々刻々に診断する表面状態のインプロセス診断アルゴリズムを改良・提案することを試みた.そこでは,測定されたスペクトルの反転解析に耐える簡明な実在表面のふく射反射・放射モデルを示した.検証実験を行い,そのすぐれた性能を例証した.さらに,第4に,可視・赤外レーザを用いる分光実験研究を行い,金属のあらい表面におけるふく射反射の角度特性を調べ,その特性を代表する伝熱・計測パラメータの記述法を提案した.
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