研究概要 |
回転角の高精度制御が必要となるNC工作機械や一部のロボットにおいては,トルクマッチングのために用いる減速歯車の伝達誤差やバックラッシ,伝達剛性等により制御精度や系の安定性が決定されるのが普通である.そのため,例えば,サーボモータを負荷に直結して減速機を取り去るダイレクトドライブが行われている.しかし,ダイレクトドライブは,精度的には極めて優れているが,大トルクのサーボモータを必要とすることや出力軸からみた軸慣性モーメントの低下を補うための補償器が大がかりになるなどにより,製造コストが高くなりがちであった. 本研究は,トラクションドライブの伝達誤差の周波数分析の結果が入力軸の1回転を基本とする基本周波数付近の低い領域に主に周波数成分を有することから,トラクションドライブを減速機構に用いると,モータの応答速度を極端に高めなくても十分な誤差補償が可能となることに着目したものであり,大トルクで高速高精度の角度制御を必要とするサーボ機構への応用が期待されるものである. トラクションドライブを減速機に用いたサーボ機構を実現するには,トラクションドライブの動特性を明らかにし,トラクションドライブ特有のスリップを考慮した制御法を開発するとともに,外乱トルクの変動に対するサーボ剛性を向上させる研究を行う必要がある.そのため,平成11年度においては,前年度に基礎研究を行ったスリップ量やトラッキング誤差を高精度で検出する研究の完成と,それに基づく制御精度向上の研究を行った.本研究では,1角度秒程度の極めて高精度でしかも高速で回転するサーボ機構を対象としているため,スリップ量とトラッキング誤差を検出するために用いているロータリエンコーダの波形歪みが問題になる.この波形歪みの影響を除くため,本研究の遂行過程で考案した非正弦波2相型PLLにより,エンコーダの2相信号を従来の10倍程度の高精度で内挿する手法を確立した.また,新たに開発した非正弦波2相型PLLを用いてスリップ量とトラッキング誤差を高精度で検出し,トラクションドライブの制御を行ったところ,大きな動的外乱トルクが加わっても十分な精度で制御可能てあることが分かり,実用化に向けた研究の目標を達成することができた.これは,優れた成果である.
|