この研究では、太陽電池の効率改善の一つのアプローチとして、希土類錯体を使って太陽電池では利用されない短波長の光を希土類イオンに吸収させた後、長波長で発光させ、電池への入射光をその高い分光感度に変換させることで高効率化を試みている。この場合、通常、太陽電池の表面に付着されている無反射膜の代りに、無反射膜の役割を持たせると同時に希土類蛍光体による波長変換の作用もさせることになる。 今年度は、a-Si(アモルファスシリコン)薄膜太陽電池の上に希土類イオンを、付着拡散もしくはイオン注入によって蛍光薄膜(厚さ;0.1-100μmオーダー)を形成させてその高効率化を目指した。研究は、大きく分けて(1)布織布浸透膜(2)ITO膜と窒化ケイ素膜の2項目の蛍光薄膜形成の課題からなる。(1)では、希土類Euの水溶液をa-Si薄膜太陽電池上の布織布(光ファイバー繊維を均一に引き伸ばした薄いシート)に染み込ませ、その上から接着剤と保護膜で覆って真空加熱圧着させ、Euイオンを電池表面に閉じ込める。圧縮処理後の太陽電池は、表面層でのEuイオンが、もとのEu塩化物として析出してしまったため、逆に透過度が低下してしまい出力は大幅に低下した。水溶液中でのEuイオンの発光はみられるが透過度の低下を補うだけの蛍光を得るためには、蛍光強度をさらに強める溶媒を選定する必要がある。(2)では、Euをそれぞれの膜にイオン注入法で混入させ、その光学的特性を調べ波長変換利用の太陽電池の可能性を探ることを目的とした。透過率は、アニールすることによって回復し、その回復度はアニール温度が上がるにつれて顕著であった。ESR測定では、注入前、注入後、アニール後の各段階の試料すべてから、欠陥による信号が検出された。この信号のg-値、線幅は、SiとSi酸化物の界面で観測される酸素空孔にトラップされた正孔であるE'センターと大変似ており、共通性がある。強い発光を得る機構の解析の際に、無機物質中の希土類イオンの発光メカニズムをしらべ電子状態を探るために高感度24GHz帯ESR及び光-マイクロ波二重共鳴装置を製作中であるが、不足していた制御メインボードを新たに購入した。
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