研究概要 |
自然形成InAs量子ドット中の電子準位をトンネル電子分光およびフォト・コンダクタンス測定により評価すること、および自然形成による量子ドットにおいても避けられないサイズのばらつきに起因するドット中の量子準位の揺らぎが与える影響を防ぐ方法を明らかにすることについて検討した。得られた成果の概略を以下に記す。 (1)自然形成による量子ドットにおいても避けられないサイズのばらつきに起因するドット中の量子準位の揺らぎが与える受光素子に与える影響をしらべるため、まず作製条件によりドット中の電子のエネルギー準位をいかに制御できるかの知見をトンネル分光法により明らかにした。この結果、平均サイズ(底辺、高さ)が(300Å,57Å)の大きなドットおよび(230Å,31Å)の小さなドットそれぞれの量子準位に対応するトンネルピーク電流が観測されたばかりでなく、そのエネルギー準位の磁場依存性から見積もった電子波の広がりが、走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)によるドットサイズの見積もりとも良く一致した。小さなドットについて研究分担者の平川助教授のグループで遠赤外光吸収の実験を試みた結果、トンネル電子分光の結果との一致をみた。 (2)自然形成による量子ドットにおいても避けられないサイズのばらつきに起因するドット中の量子準位の揺らぎが与える影響を抑制する一つの方法として、多数のドット集合を含む変調ドープ・ヘテロ接合構造を検討した。理想的な1トランジスタあたり数個の量子ドットを埋め込んだ素子構造においては、入射光と高々数個の量子ドット中の電子との間の散乱断面積が小さいと予想されることが最大の問題であるが、散乱断面積を大幅に増加させるため、素子あたり10,000個程度の量子ドットを埋め込んだ構造を作製した。その結果、本構造で十分にドットの平均的電子状態に敏感な素子を得た。ドットの平均的帯電状態に敏感な素子構造のため、ドット中の電子の殻構造をこのようなトランジスタ構造で初めて観測した。
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