本研究では、申請者が見い出した新現象-プローブ誘起相転移-を利用して、新しい原理に基づくnmスケールの超高密度記憶を実現することを目的とし、硫化カルゴネゲナイト材料中に情報を再現性良く「読み書き」するための実験条件の最適化を行った。 物質探索を進めた結果、セレンをドープした硫化イオウ系において、nmサイズの網目状構造を得た。また同材料の金属-絶縁体転移温度(180K)の直上において、走査トンネル顕微鏡(STM)の探針を走査したところ、局所的に絶縁体領域を「書き込む」ことに成功した。また、昇温することにより、一旦書き込んだ情報をすべてクリアできることも確認した。従って、本手法はリードオンリメモリとしての実用化が期待できる。網目の最少サイズは5nmであり、テラバイト/cm2レベルの超高密度が達成できる可能性がある。 上記系では、実験温度を精密に制御する必要があったが、純粋な硫化イオウ系において合成条件を工夫した結果、室温においてもプローブ誘起相転移現象を確認した。本試料はマクロな意味では金属-絶縁体転移を示さず、結晶内に大きな歪みが存在するものと考えられる。この歪みを局所プローブにより緩和することで、高温においてもプローブ誘起相転移が起こったものと推測される。
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