研究概要 |
近年,火力発電プラントの高温厚肉部材に,高Cr耐熱鋼が多く便用されている。これらの高温構造部材は,クリープ変形がおきる条件で使われる。本研究は,高Cr耐熱鋼の代表例であるマルテンサイト組織のフェライト系耐熱鋼を対象とし,クリープ条件での非破壊的余寿命評価法の確立と実用化を目的としている。本年度はクリープを支配する組織因子の特定を目的として研究を行い,以下の結果を得た。 1.高Cr耐熱鋼のクリープ強度に影響を及ぼしうる因子には,転位(マルテンサイトラス)組織,ラス境界や粒界に析出するM23C6やLaves相などの析出物,ラス内部に析出する微細なMX炭窒化物,および固溶元素(W,Moなど)の4つがある。 2.固溶元素量がクリープ強度に及ぼす影響は小さい。従って,クリープ中の固溶元素の枯渇(析出物の生成)は,寿命消費の指標とならない。 3.MX析出物はクリープ中に安定で,MX析出物数も寿命消費の指標とはならない。 4.転位は,材料中で最も密に存在する障害物で,高Cr耐熱鋼の強さを決めている。そして,転位組織の回復と3次クリープの出現およびその後の破断は,密接に関連している。従って,転位組織の回復を,寿命消費の指標とすべきである。なお,ラス幅,ラス内転位密度などから,転位組織の回復が評価できる。 5.M23C6やLaves相の析出間隔は広く,それ自体は,クリープ中の転位運動を直接支配する障害物ではない。しかし,これらの障害物の凝集粗大化は,転位組織の回復に影響し,析出物の凝集粗大化が早いと,転位組織の回復も早い。従って,これらの析出物数の変化は,寿命消費の間接的指標となる。
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