研究概要 |
本研究は高温材料の使用環境下で起こる粒界および表面に関わる現象を績極的に制御することにより、耐熱性および耐酸化性を高め、優れた性能をもつ高温材料の設計・開発の基本原理確立を目指して行われたものである。当該年度は高温構造材料として期待されている炭化珪素の力学特性に及ぼす粒界化学組成の影響に関する研究、耐熱合金の基礎材料として用いられるニッケルの力学特性および硫黄による粒界偏析脆化に及ぼす粒界微細組織の影響に関する研究を中心に行った。得られた結果の概要は以下の通りである。 (1)炭化珪素の力学特性に及ぼす粒界化学組成の影響: BおよびCを焼結助剤としたβ-SiCにSiと同一周期で価数が異なり、かつ粒界偏析が期待できるMg,Al,P,Sを微量添加した試料を作製した。電気陰性度に基づき粒界における原子結合状態の変化を評価すると、Al,Mgは順に部分イオン性を増加(共有結合性を減少)させ、逆にP,Sは部分イオン性を減少(共有結合性を増加)させることになる。これらの試料を用いて大気中で室温から1773Kの温度範囲において4点曲げ試験を行い、SiCの力学特性に及ぼす粒界化学組成の影響を調べた。その結果、破壊に要するひずみエネルギーは粒界の化学結合性に依存し、部分イオン性がSiCに対し約3%増加するAl添加材で最大値を示した。部分イオン性がさらに増加するMg添加材ではひずみエネルギーは急激に減少した。逆にP,S添加剤では、共有結合性が増す(部分イオン性が減少する)に従い、破壊に要するひずみエネルギーは緩やかに減少する傾向を示した。これらのことは、粒界化学構造の制御によりSiCの靭性向上が可能であることを示している。 (2)ニッケルナノ多結晶材料の力学特性及び粒界偏析脆化に及ぼす粒界微細組織の影響: 電着法により作製されたニッケルナノ結晶を焼鈍し、粒界密度(粒径)および粒界性格分布を系統的に変化させ、硬度および硫黄の粒界偏析による材料劣化との関連を調べた。その結果、ニッケル多結晶体の硬度は対応粒界の存在頻度および対応粒界同士が連結した3重点の頻度が高くなるにつれて低下することが明らかとなった。また、硫黄による粒界脆化は、圧痕法による破壊靭性の評価から、対応粒界の存在頻度を高め結晶粒径を微細化することにより制御できる可能性が示された。
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