研究課題
近年、社会的な関心事として浸透している内分泌撹乱物質は、長期的な生物の生命間にあって、生物の分化のプロセスの最も重要な部分に密かに関与し、時に極めて重大な影響を与えることが認識されるようになってきた。海洋中の有機スズ汚染による海産巻貝類のインポセックスに関してもマスコミにとりあげられるようになった。しかしながら、発症機構に関してはほとんど不明である。インポセックス発症機構の解明のためには巻貝類のホルモン代謝を知ることが不可欠であるが、この点も情報が欠落している。そこで本研究では、これまで日本各地の沿岸から海産巻き貝類を採取し、有機スズを四級アルキル化しGC/FPD法によって体内濃度を測定した。次いで有機スズ化合物が海産巻き貝類の性の分化を撹乱する作用機序を探索するため、海産巻き貝中のステロイド様化合物を調査した。試料を低温下細断しメタノール抽出し、抽出液をメタノール/ヘキサン(1:1)分配を行い脂質を除去した後、MSTFA+DTE+TMSIで誘導体化し、GC-MSの試料とした。スタンダードとして入手可能な各種ステロイド化合物を用いデータベースの確認を行い、試料中よりテストステロン様化合物を同定した。さらにICN社製ELISAキットを用い、テストステロンを免疫化学的に検出することを試みた。その結果、免疫化学的手法では同じ試料を用いた場合GC/MS法より高い価を示した。また免疫組織化学法を用いてイボニシおよびバイの組織を調査したところ、精巣中にテストステロンを含む間細胞が存在していることが分かった。この結果について、第61回分析化学討論会で発表する。