研究概要 |
近年,偏光照射した配向膜を用いた液晶の光配向が注目されている。この方法の特徴は,光を利用することによって,微小領域でも配向処理を施すことができ,液晶の配向方向を選択的かつ任意に変えることができる点である。本研究では,偏光照射によって光分解をほとんど伴わず,かつ効果的に液晶配向を実現できるポリイミド配向膜を開発し,新しいラビングレス液晶配向制御方法を確立することを目的とした。ガラス基板上に前駆体であるポリアミド酸をスピンコートし,加熱することによってイミド化した後,366nmの偏光を照射し,この基板を用いて作製した液晶セル中にネマチック液晶を封入した。その結果,従来の方法より長波長の光で液晶の一軸配向を誘起できることが明らかとなった。また,液晶の配向方向は照射偏光面と垂直になることが確認された。誘起されるネマチック液晶の配向秩序度は,照射エネルギー,ポリイミドの分子構造に大きく依存した。さらに,偏光照射前後におけるポリイミドの構造変化を,紫外可視・赤外吸収スペクトル測定によって評価したところ,ジフェニルエーテル部位を有する芳香族ポリイミドに関してはほとんど構造変化が起こらないことがわかった。全芳香族ポリイミドの中でペンゾフェノン構造とジフェニルメタン構造を有するポリイミドは紫外光照射に対して敏感であり,空気中で直線偏光を照射すると光によってアブレーションが起こることが紫外可視・赤外吸収スペクトル測定によって明らかとなった。一方,ジフェニルエーテル構造を有する芳香族ポリイミドは紫外光に対して非常に安定であり,光分解だけでは液晶配向メカニズムを完全に説明することができない。また,偏光照射ポリイミド配向膜の液晶配向能に及ぼす温度の影響を調べた結果,光照射に伴う構造変化が最も小さいジフェニルエーテル構造を有する芳香族ポリイミドが最も熱安定性が高かった。
|