大気下におけるAu蒸着膜の光電子放出、仕事関数に与える吸着分子の効果を検討した。Ti板にAu120nmを蒸着した試料を石英製流通ガラスセルに入れ、電界100V/cmで254nmの紫外光を照射して光電子電流を測定した。0.5Torrの水、エタノールの蒸気を導入したところ、10-20%の光電子電流増加が観測された。この変化は可逆であり速く、数分間で定常に達した。一方、導入分子を0.5Torrアセトンとした場合は、光電子電流が大幅に減少し、ほとんど0となった。この場合、電流変化は不可逆的であり、気相からアセトンを取り除いても光電子電流は初期値の40%程度までしか回復しなかった。紫外光の波長を変えたときの光電子電流量変化から仕事関数を測定した。水、エタノールの場合は仕事関数変化が小さく、変化が検出限界以下であったと思われるが、アセトンの場合は仕事関数のおおきな増大がみられた。すなわち、アセトン導入前は、4.55eVであったのに対し、0.5Torrアセトン導入後は、4.76eVに達した。さらにアセトン除去後は4.65eVであった。このように光電子電流の変化と仕事関数変化は対応している。以上の結果は、基板をAl板としても同様であった。以上、吸着分子の導入、吸着により仕事関数が変化し、大気下光電子電流が大きく変化すること、分子の種類によりその寄与が大きく異なることがわかった。
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