研究概要 |
活性型ビタミンD(1α,25(OH)_2-D_3)は体内のカルシウム代謝を担うホルモンであるが、1981年にこの活性型ビタミンDの分化誘導作用に関する報告がなされて以来、これを端緒としてビタミンDの多様な生理活性に基づく新たな化学が展開されるに至っている。白血病細胞の分化誘導作用を始めとして癌細胞の増殖抑制作用などはその多彩な生理作用の一例である。しかし、活性型ビタミンDそのものを白血病や癌の治療薬として用いた場合、その大量投与による副作用、高カルシウム血症が問題となる。従って、治療薬としては本来のカルシウム代謝作用を抑制し分化誘導作用を高めた、作用分離のなされた誘導体の開発が必要とされていた。本研究はこうした作用分離のなされたビタミンD誘導体の開発を目的とし、A環ならびにD環を修飾した新規ビタミンD誘導体の不斉合成を、申請者らが独自に開発したエン反応を基盤として検討したものである。 まず、A環の修飾では19位のメチレンが分化誘導作用に必須な置換基であるかを確かめるため、19メチレン部を取り除いた19ノル体を不斉触媒的エン反応によって不斉合成した。その際、1位、3位の水酸基の立体化学ならびにその有無が活性発現に与える影響を系統的に調べるため、各種A環部誘導体を合成した。その結果、癌細胞の増殖抑制には19ノル体については3β-水酸基が活性発現に重要であることを明らかにした。また1,3位の水酸基の立体配座を規定する目的で2位にメチル基を導入したA環部誘導体も不斉合成した。
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