水稲の直播栽培の安定化に不可欠とされる出芽能力を向上させるために必要とされる諸形質の解明のための試験を行った。まず、アミラーゼのなかで最も基本的な酵素であるα-アミラーゼのIsoformと出芽の関係を調査した。この結果、低温湛水条件下での鞘葉伸長に対しては、これまで発芽時のデンプン分解に関わる主要酵素とされてきたアイソフォームAではなく、RAmy3D遺伝子から翻訳されるアイソフォームHがより深い関わりを持つ可能性を明らかにした。また、Northern Blotとin situ hybridizationを用い、RAmy3Dの発現パターンは鞘葉伸長のできる品種とできない品種の間で明らかに異なることを示した。これらの結果から、RAmy3Dα-アミラーゼが湛水土壌中でのデンプン分解過程の主要な律速課程であり、この発現はpost-transcriptionのレベルで調節されている可能性が高いことを示した。 ついで、嫌気条件下での鞘葉伸長に関わる糖以外の要因としてアルコール脱水素酵素(ADH)との関連性について検討した。その結果、湛水土壌中条件下で鞘葉伸長ができる品種ではADHアイソフォームは3本見られたのに対し、鞘葉伸長が出いない品種では1本しか検出されないこと、更に、嫌気条件に近い湛水土壌中ではADH活性と鞘葉伸長程度は常に平行的に変化するとは限らないことを示した。 最後に鞘葉伸長に深く関わるもう1つの重要な要因であるα-expansin遺伝子をとりあげた。その結果、α-expansin遺伝子のアイソフォーム4つのうち2つのものがイネ嫌気条件下での鞘葉の伸長に関わっていることを、ノーザーン法およびin situ hybridization法により明らかにした。 このように、水稲の出芽の制御機構は、糖の分解過程、低酸素条件下で特有のアルコール脱水素酵素、さらにはα-expansinなどが関与する複雑系であり、各々の寄与度についての評価ができたと考えられる。
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