研究概要 |
不耕起栽培は,土壌侵食防止や生産コストの低減において意義を持ち,地球環境的にも化石エネルギーの使用節減やCO_2排出削減に有効である。しかし,土壌硬度の増大に伴う根系の発育阻害,それに起因した種々のストレスが不耕起栽培の障壁となっている。多くの作物種の根には,特定の糸状菌が感染して菌根を形成し,リンを筆頭に養水分吸収を促進させることが知られている。本研究ではこの菌根共生系を活用して,不耕起栽培で特に問題となる根系の発育阻害に起因したストレスの低減を目指して試験を行った。菌糸に隔膜を持たない菌根菌は,物理的な切断によって大きく活性が低下する。本研究のポット試験においても,不耕起土壌では耕起土壌と比較して菌の感染能および胞子数が高く維持されることを確認した。この結果,宿主作物であるキマメの菌根形成は不耕起土壌で盛んとなり,通常では生育が大きく阻害される条件にも関わらず,耕起土壌の生育と同程度まで改善させることができた。この機作として,比根長の増加とリン吸収能の向上が大きく貢献したと考えられた。また,菌根形成がリン吸収能を向上させる機構を難溶性リン酸の利用率に着目して解析した。数種のマメ科作物を難溶性リン酸のみを与えて栽培したところ,菌を接種しなかった個体や菌根形成能を持たない作物種はほとんど生長できなかったのに対して,菌根を形成した作物種の生長はリン欠乏ストレスを受けずに旺盛であった。以上の本研究の結果から,不耕起土壌において菌根形成が盛んとなり,作物が被る不耕起土壌ストレスを著しく緩和させることが明らかとなった。また,菌根形成によるリン吸収能向上の機構のーつとして,通常の植物が利用しにくい難溶性リン酸の利用率向上も大きいことが示された。
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