研究概要 |
本年度は、イネいもち病菌のレース(品種特異的病原性)の分子同定法の確立を目的として、日本産イネいもち病菌のDNAフィンガープリント解析を行った。1993-1997年に採集・単胞子分離した279菌株(圃場菌株)および1976年に採集された22菌株(実験室保存菌株)のゲノムDNAを抽出し、Bam HIで切断後MGR586よびMAGGYをプローブとしてフィンガープリント解析を行ったところ、それぞれの菌株集団が70%レベルの相同性を有する2つのリネージ(Lineage)に分けられた。さらに圃場菌株における2つのリネージは実験室保存菌株における2つのリネージと一対一に対応した。以上の結果から、現在の日本におけるイネいもち病菌集団には2つのリネージ(JL1,JL2と仮称)が存在することが明らかとなった。JLlは圃場菌株および実験室保存菌株のそれぞれ97%および77%を占める主要なリネージで、日本全国に分布していた。一方、1960年以前に採集された集団は少なくとも5つのリネージよりなるとされているが、JLl,JL2はそのうちの2つに相当した。このことから、日本のイネいもち病菌集団の構造は1960年から1976年の間に大きく変化したことが示唆された。各リネージに属する菌系のイネ判別品種に対する病原性を調べたところ、リネージと病原性の間に関連は認められなかった。このことから、単純なフィンガープリント解析によるレース判別は困難であり、その迅速同定法確立のためには関与する非病原性遺伝子すべてのクローニングが必要であることが示唆された。
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