研究概要 |
本研究は、緑膿菌バイオフィルム感染症の治療に土壌分離細菌が生産する酵素(アルギン酸リアーゼ)を適用することを目的としている。本酵素を安全に体内に導入するためポリエチレングリコール(PEG)修飾を行い、この修飾酵素の特性を検討した。その結果、高い活性を有し、かつ、低い抗原性を示す修飾酵素の調製法を確立した。特に、分子量120,000のPEGを用いることにより、残存活性60%以上、残存抗原活性0.3%以下の良好な修飾酵素が調製可能であった。この修飾酵素は、実験動物血中において極めて安定に維持され、消失半減期は著しく延長(未修飾体、20-30分;修飾体、20-40時間)した。この消失半減期の延長に伴い、全身クリアランスの著しい低下と、AUC(血中濃度一時間曲線下面積)の顕著な増大が認められた。また、修飾酵素は有意な免疫反応性も示さず、良好な血中動態結果を示した。しかしながら、モルモット動物実験でアナフィラキシーショックを誘発した(原因は、現在検討中)。そこで、X線結晶構造解析により、本酵素の高次構造を決定し、抗原性部位の除去を検討した。蒸気拡散法で結晶化し、その高次構造を1.67Aの解像率で決定した。結晶系はモノクリニック、空間群C2、単位格子はa:48.9A,b=92.4A,c=81.6Aであり非対称単位当たり1分子の酵素を含んでいた。本酵素は、β-シート構造をほとんど含まず、大小12個のα-ヘリノックス構造からのみ形成されていた。また、高分子基質(アルギン酸)が貫通しながら酵素の触媒部位と相互作用するクレフトの存在が認められた。また、本酵素の一次構造に基づいたコンピューター予測とin vitro抗原性試験により、抗原エビトーブ部位を同定した。抗原エビトーブ配列の除去は、タンパク質工学的手法により行った。尚、本研究で購入したバイオクリーンベンチ(昭和科学S-100型:1,275千円)は、本研究を遂行する上で極めて有用であった。
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