研究概要 |
緑膿菌感染症に代表される細菌感染症では、感染局所で細菌が高粘性・高分子量の多糖アルギン酸を合成分泌し、これをバイオフィルムとした棲息形態を取る。このバイオフィルムは強固であり、且つ物質透過制御機能を持つため通常の抗生物質投与による治療には限界がある。本研究では、新たな治療法として酵素アルギン酸リアーゼでバイオフィルムを溶解・除去する方法を提案し、酵素の安全性確保(抗原性除去)の検討を進めた。本酵素の抗原性エピトープ部位は、生化学的方法とアルギン酸リアーゼ(A1-III)の3次元構造に基づいて、酵素のN末端側27Ser〜44Cysに特定した。この部位は、酵素活性に必要な活性クレフトとは離れているため、抗原性エピトープの完全除去、或いは部位特異的変異による部分的構造変換が可能であると判断された。まず、部位特異的変異による抗原性除去を行うため、この部位における表面露出度の高い27Ser、29Gln,32Asp,及び40Lysについて、それぞれ非極性アミノ酸であるアラニン残基に置換したS27A、Q29A、D32A、及びK40A変異体を作製し、それらの大腸菌での大量発現を行った。その結果、K40Aは強固な封入体となったため、40Lysは酵素のフォールディングに重要であることが示唆された。S27A,Q29A、及びD32A変異体は、野生型と同等の酵素学的性質を示した。この3種類の変異アルギン酸リアーゼをマウスに投与し、その抗原性を評価している。このようにコンピューターモデリングとタンパク質工学により改変した酵素の抗原性を動物試験で評価することにより、人体に適用可能な完全無抗原性酵素を調製する基盤を確立した。また、酵素A1-IIIのアルギン酸溶解機構を明らかにするため、活性中心近傍の詳細な構造も明らかにした。
|