研究概要 |
海洋中の構造物や船底に付着する海産無脊椎動物を防除する数多くの試みがこれまでになされてきたが,未だに有機スズ化合物等に代わりうる有効な化合物は見い出されていない。我々は代表的付着生物であるフジツボを用いてこれまでとは視点を変え,付着防止ではなく,成長阻害によって防除するという考え方に基づいて,殻の形成に関与していると考えられる炭酸脱水酵素に対する阻害活性を指標にして阻害物質の検索を行った。まず,酵素活性を測定するための簡便なアッセイ系を構築した。すなわち,市販のウシの炭酸脱水酵素を用いてリン酸緩衝液中に重炭酸ナトリウム溶液を加えたときのpH変化を追跡する方法を確立した。この系を用いて既知の炭酸脱水酵素阻害剤が阻害活性を示すことを確かめた。つぎにタテジマフジツボを殻ごと乳鉢でつぶし,この遠心上清に炭酸脱水酵素の活性があることを確かめた。以後のスクリーニングは酵素液としてこの抽出上清を用いて行った。これまでに,土壌から分離されたカビ約300株,放線菌約100株の培養上清および一部については菌体のメタノール抽出物について酵素阻害活性を測定した。一次スクリーニングの結果,10株に阻害活性が認められた。それらについて同様の方法で二次クリーニングを行った結果,そのなかの1放線菌の培養上清に酵素阻害活性の再現性が認められた。この物質について予備的に精製した結果,本物質は水溶性が強く,HP-20,Sep-PakC18,陽イオン交換樹脂にはいずれも吸着されないが,陰イオン交換樹脂には吸着されることがわかった。これらの性質から,活性本体は低分子の酸性化合物と予想された。これまで,天然から炭酸脱水酵素阻害物質はほとんど得られていないことから本化合物の構造に興味がもたれる。現在さらに精製中である。
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