研究概要 |
海洋の付着生物防除化合物として長い間使用されてきた有機スズ化合物が内分泌撹乱物質としての作用を有することが明らかになって以来,その製造および使用が制限されているため,代替化合物の開発が急務となっている。本研究では,付着生物の代表としてフジツボを用い,その成長と密接にかかわっている石灰化反応(殻形成)に重要な役割を果たしていると考えられる炭酸脱水酵素を標的にしてその阻害剤を検索した。各地の土壌から分離した放線菌をふくむ約600株について培養上清と菌体抽出物をスクリーニングした結果,横浜市の土壌から分離した1放線菌の培養上清に活性を認めた。この培養上清を出発にして活性炭,イオン交換等によって精製を進めた結果,活性物質を無色の板状結晶として単離することができた。本化合物は1x10^<-5>M以上の濃度で酵素阻害活性を示した。本化合物は高分解能マススペクトルの結果から,分子量113,分子式C_3H_3N_3O_2であることがわかった。^1Hおよび^<13>C NMRスペクトル,UVスペクトルの解析から,本化合物は1953年,Maedaらによって単離構造決定された2-nitroimidazole(azomycin)と同一化合物であることが推定された。本化合物の標品のスペクトルとの比較から完全に同定された。本化合物をフジツボの幼生に与えたところ,10ppm以上において石灰化を阻害し,殻の形成に異常が認められた。しかし,付着に対してはまったく影響を与えなかった。そこで,本化合物を各種塗料とともに板に塗り付け,野外試験に供し,付着生物に対する効果を調べたところ,残念ながら対照に比べてまったく有効な活性は認められなかった。
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