最近、見い出された“生成物の固定化"現象(不溶性多糖類の酵素分解時に生成物が多糖と共沈)の重要な利点がある(生成物を容易かつ低エネルギー下に回収できる。優良な低分子化合物を多糖類に包接できる)。本研究は、この現象自体の基礎的知見をさらに集積し、食品産業への応用を意図して計画された。本年度は、結晶性・不溶性多糖類のうち、セルロースを選び、その加水分解酵素(セルラーゼ)を作用させ、次に述べる研究成果が得られた。 セルラーゼは、入手が容易で高活性なAspergillus niger起源のものを用いた。本酵素サンプルは多成分であることが知られている。が、応用を意図し、低分子を除く程度の軽微な精製にとどめ、完全精製を敢て行わなかった。酵素を結晶性セルロースに経時的に作用させ、経時的に反応液の一部を回収した。遠心分離後の上清および沈殿画分の還元力を測定した。反応初期に約50-70%の生成物が基質とともに沈殿することが見い出された。反応時間の推移とともに沈殿画分中の生成物量が減少したが、分解作用が一定に達した後でも、約10-20%の生成物がセルロースとともに沈殿した。沈殿中の生成物は、可溶性の短鎖オリゴ糖であり、生成物の固定化現象を確認した。セルラーゼは反応の初期にセルロース中に存在する非結晶性領域を主に分解すると考えられている。このようなアモルファスな構造領域であっても生成物を固定化できると想像できる。反応液にアルコール(エタノール)を加えたところ、沈殿中の生成物量が増加した。従って、反応後にエタノール濃度を下げることで、沈殿画分からオリゴ糖を容易に回収できる。
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