研究概要 |
本年度は,ガンマ線測定用のORTEC社Ge半導体検出器(垂直型;相対効率30%)を設置調整し,測定を開始した。目的核種Cs-137の661keVでの検出効率および分解能は,本測定目的には充分なものであった。上部を約10cmの鉛で遮蔽した。浸食されていない通常の土壌表面の測定には充分であるが,Cs-137濃度の低い,あるいは,ほとんど無い試料の測定には,測定器下部からの遮蔽をさらに検討する必要がある。 Cs-137を森林内における土壌侵食のトレーサとして用いるための基礎的検討をした。フォールアウトとして供給されたCs-137の表面土壌における二次元分布を明らかにした。さらに、森林土壌におけるCs-137分布の特徴として、有機物の存在との関係を明らかにした。さらに、Cs-137およびBe-7の流域スケールでの土壌侵食に対するトレーサとして使えるのかどうかを明らかにするため,洪水時における懸濁物質の土砂に含まれるCs-137,Be-7を測定した。観測は,台風7号が三重県上空を通過したときに実際に現地で懸濁物質を20L採取し,その中に含まれるCs-137およびBe-7を測定した。 その結果,比較的広い流域面積を持つ河川においては,懸濁物質中のCs-137は非常に低い値を示した。このことは,流域スケールの細粒土砂移動は,土壌侵食による土壌表面の侵食よりも,むしろ増加した流量がもたらす,渓岸の侵食による土砂が多いことを示唆する。 一方、炭素同位体を林木成長に関わる諸要因のトレーサとして用いるための基礎研究を行った。刺針法を用いて一つの樹木年輪に傷害による偽年輪を2週間単位で形成させることで、従来より時間分解能、精度が格段に高い安定炭素同位対比(δ13C)の変動を得ることに成功した。その結果、調査対象の二次林で、年輪内のδ13Cは気温と負の相関が、成長速度と正の相関を示した。前者は、林地の土壌含水率が低く(10-20%)、試料木が渇水状態となったことが推察され、年輪のδ13Cから森林立地の状態の推定が可能であることが示唆された。
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