研究概要 |
本研究は日本の森林に焦点を当て、森林生態系の物質循環に含まれる放射性核種をトレーサとして、森林の荒廃程度を定量化することを目的とした。内容は大きく2課題にわけられる。ひとつは、主としてCs-137をトレーサとした土砂移動に関する研究である。間伐の行われていないヒノキ人工林では林冠が閉鎖し、林床が裸地化することによる表面侵食が起こりやすくなっている。また、侵食された土砂は貯水池の懸濁を引き起こし、水域での問題も引き起こしている。このような森林内での侵食量を見積もり、また懸濁土砂の供給源を特定することは、適切な森林管理を行う指針を作成する上で重要である。二つ目は炭素の同位体を用いた植物の環境評価に関する研究である。植物が光合成で二酸化炭素を吸収する際に取り込む炭素の同位体比は、周囲の様々な環境因子を反映している。樹木が環境変化によるストレスを受けた場合、その記録が年輪中の炭素同位体比に刻まれている可能性がある。従って、炭素同位体分析による環境変化の解析は、森林荒廃の植物側からの情報として重要である。 本研究の成果より、Cs-137を森林における土砂移動のトレーサとして侵食土砂量を見積もる方法が有効であることが明らかになった。一方で、さらに精度を高めるためには、土砂流出時のCs-137の形態変化、特に有機物との関係を解明する必要があることが示唆された。また、土砂の供給源を特定するには、K-40,Pb-214,Bi-214,Tl-208,Pb212などの核種の濃度比を用いることが有効であることが明らかとなった。また、C-14を用いた樹木年輪の解析からは、長期にわたる環境変動を読みとることができ、特に年輪幅データと合わせた解析が有効であることが示された。
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