研究概要 |
種々の免疫強化物質が、魚類の生体防御をどのように増強するのかについては不明な点が多い。本研究は、数種の異なる刺激剤によって発現量が増加する遺伝子を、Suppression Subtractive Hybridization(SSH)法によって同定し、遺伝子発現の変動パターンからコイの生体防御系の活性化機構を推定することを目的とした。まず、β-1,3-グルカンおよびアルギン酸塩を投与した実験から、34種の免役関連遺伝子を同定し、そのうちCXCケモカインレセプター、インターロイキン1β、血清アミロイドPを含む10種については完全一次構造を決定した。また、魚類からは初めて、補体レセプタータイプ3のαおよびβサブユニットのcDNAがクローニングされた。一方、刺激剤としてテルペン油を用いた場合、上記多糖系刺激剤とは若干異なる遺伝子の発現が上昇することが判明した。テルペン油投与によって初めて同定された遺伝子としては、LECT2、CD45、グリア細胞成熟因子、リゾチウムC-3など12種が挙げられる。また、これまでに他の魚種で急性期応答因子として報告されているpentraxinや新奇C-タイプレクチンも同定された。注目すべきことに、コイでは、第3の補体B因子アイソタイプが発見され、これがβ-1,3-グルカンの投与に応答して主に白血球で発現することが判明した。 以上の結果から、SSH法は魚類の生体防御関連遺伝子の同定に極めて有用な手法であることが確認されたとともに、投与した免疫強化物質の違いによる発現遺伝子の違いが浮き彫りになりつつある。したがって、本研究のアプローチは、免疫強化物質の作用機序の解明および新規免疫強化物質の評価、スクリーニングに極めて有効であると考えられる。
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