研究概要 |
1. 膵癌に関しては,遺伝子治療の標的癌抑制遺伝子を同定すべく6q,12qにおける共通欠失領域を特定し,YAC,BACによるコンティグを作成,さらに発現している遺伝子のスクリーニングを行った。12qにおいては2個の候補癌抑制遺伝子について異常の有無を調べたが,構造異常は見られなかった。尚,12q21のDUSP6遺伝子では,多数の膵癌細胞株で発現の減弱や消失が観察されたため,発癌との関連の可能性が考えられ,現在,発現の消失している細胞株に導入するため,アデノウイルスへの組み込みの過程にある。この他,SMAD4,p53,p16等の異常のある膵癌細胞株をスクリーニングし,アデノウイルスに組み込んだこれらの遺伝子を導入することによる膵癌細胞の造腫瘍性抑制効果を検討している。尚,膵液中の細胞を用い,膵癌で高頻度に異常が報告されている9p,17p,18qの欠失と8q,20qの増幅を指標にFISHによる診断を試みたところ,FISH法が非常に有効であり,かつ18qの欠失が初期に生じている異常であることが明らかになった。SMAD4の異常が発癌の初期に重要な働きをしていることを強く示唆する結果である。 2. 子宮内膜癌については,PTEN遺伝子に異常のある子宮内膜癌細胞株をスクリーニングし,選んだ細胞株にアデノウイルスベクターに組み込んだ正常PTEN遺伝子を導入し,造腫瘍性の変化を検討している。尚,PTEN遺伝子は子宮内膜異型増殖症において既に異常をきたしており,子宮内膜の発癌過程における初期変化であることも明らかにした。また,この他の標的癌抑制遺伝子の同定のため,我々がこれまでに同定した10q25-q26の欠失領域からの遺伝子単離に取り組んでいる。この領域の欠失は子宮内膜異型増殖症においても高頻度に見られ,子宮内膜の発癌過程における初期変化であることも明らかにし,この領域の癌抑制遺伝子は遺伝子治療に使うには適していることが示唆された。
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