研究概要 |
1.前年度,膵の発癌過程において18qの欠失が初期変化であると考えられることを報告したが,本年度は,遺伝子治療の試みとして,同領域のSMAD4遺伝子がホモ欠失している複数の膵癌細胞株に正常SMAD4遣伝子をアデノウイルスベクターを用いて導入した。ところが,いずれの細胞株においてもSMAD4蛋白の発現は同定できたが,増殖能は全く抑制されなかった。これらの事実を考え合わせると,単一の遺伝子異常が発がんの初期変化であり,かつ予後不良因子である可能性も否定できないが,18qにはSMAD4遺伝子以外にもがん抑制遺伝子が局在する可能性が高いものと考えられる。 2.子宮内膜癌では,前年度までに高頻度にPTEN遺伝子の異常が見られること,また,この異常が初期変化であることを明らかにしたが,今年度は,PTEN遺伝子を用いた遺伝子治療を試みた。PTEN遺伝子のtwo-hitの異常がある複数の子宮内膜癌細胞株にアデノウイルスベクターを用いて正常PTEN遺伝子を導入したところ,PTEN蛋白の発現が同定できた。さらに,腫瘍細胞の増殖抑制がin vitroで確認できた。これらの細胞株をヌードマウスに移植し,アデノウイルスベクターを用いた実験的遺伝子治療を試みたが,腫瘍縮小効果は見られなかった。これらの事実は,PTEN遺伝子を用いた遺伝子治療の臨床応用に向けて,さらに一工夫を要することを示している。
|