研究概要 |
ウェルシュ菌、strain13の培養上清中に含まれる細胞間情報伝達物質(VAP)の性状を検討した結果、非常に不安定で低分子の物質がウェルシュ菌毒素産生を細胞外から制御していることが明らかとなった。この刺激物質、VAPの精製法の確立を試みた。VAPは培養上清中では速やかに失活し、pH5.0付近で活性がもっとも強く、煮沸により容易に失活し、分子量は3,000以下と非常に低分子の物質であることから、精製過程における失活を防ぐための様々な条件を検討した。培養量は大体、1,000〜3,000mlを用い、培養開始後1.5時間で菌体を分離し、培養上清を調整した。培養上清はただちに氷中におき失活を極力抑えつつ、低温室にて旭化成のペンシル型モジュール(分画分子量10,000)を用いて分画した。濃縮画分とろ過画分中のVAP活性を測定したところ、濃縮画分に高いVAP活性が認められ、この画分からさらに精製を試みた。濃縮画分からの逆相カラムクロマトグラフィー(C18)を用いた分取をただちに行い、アセトニトリルの濃度勾配で溶出される分画中の活性を測定したところ、1〜2%のアセトニトリルで溶出されることが明らかとなり、粗精製法が確立された。こうして得られた粗精製標品をTOF-MAS解析にかけたところ、分子量約1,300のメインなピークと、ピークの小さい数個のピークが見られ、この1,300のピークがVAPである可能性が高いと考えられた。しかしながら精製過程での失活は防ぎようがなく、得られたVAP標品では今後の解析がかなり困難であることより、より大量のVAPの精製法の確立が、この興味深い細胞間情報伝達を利用した新たな感染症治療法の開発には必要不可欠である、と思われた。現在、様々な条件を用いてVAPを精製し、構造解析する手法を検討中であり、近い将来、VAPを応用した治療法の検討が可能になると考えている。
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