研究課題
基盤研究(B)
ヒトのインフルエンザウイルスは、細胞からの出芽時には感染生を持たないが、ヒトの気道あるいは肺に局在するトリプシン型プロテアーゼにより、ウイルスの外膜糖蛋白質が限定分解を受け、初めて感染生を獲得することが知られている。則ち宿主側のプロテアーゼがウイルスの感染性発現の鍵を握っていると言っても過言ではない。平成10年度から平成12年度までのラットを用いたインフルエンザの感染モデル動物実験から、我々はトリプターゼクララ、ミニプラスミン、異所性アニオニックトリプシンの3種のウイルス活性化プロテアーゼを見出した。さらにそれぞれの酵素の局在が異り、違った役割を示すことが明かとなった。気道内の中でも比較的太い細気管支の粘膜分泌細胞にはミニプラスミンが局在し、末梢の細気管支(終末細気管支と呼吸細気管支)の分泌細胞にはトリプターゼクララが分布し、さらに肺胞には異所性トリプシンが分布していた。またそれぞれのプロテアーゼに対する生体内のインヒビターも異なり、ミニプラスミンに対してはα2-マクログロブリンが、トリプターゼクララに対しては粘液プロテアーゼインヒビターが、異所性トリプシンにはアンチトリプシンが阻害効果を示すことが明かとなった。上記のプロテアーゼの局在の違いは、上気道で発症したインフルエンザが感染の進行とともに下気道に移向するにつれ、ウイルスの活性化に関与するプロテアーゼが異なってくることを示している。従ってウイルス活性化プロテアーゼを標的にした抗インフルエンザ薬を考えるさいに、感染の進行段階を考慮したそれぞれのプロテアーゼに対するインヒビターを用いなくてはならないことが明かとなった。以上の研究により、インフルエンザウイルスの感染感受性を決めている宿主側のプロテアーゼが明確になった。
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