研究概要 |
NF-κBの持つ種々の生物学的機能(転写活性化やアポトーシス制御,など)の発現と調節制御系に関わる未知の因子を同定するために、NF-κBのp65サブユニットと結合する蛋白分子での遺伝子クローニングを酵母two-hybrid screening法を用いて実施した。また,種々の細胞で確立されたモデル実験系を適用し,NF-κBの生物学的作用を分子間相互作用の立場から解明することを第2の目的とした。 NF-κB相互作用因子の同定は我々の当初の予想を越えて新たな展開を示した。我々が同定した遺伝子RelA-associated inhibitor(RAI)は特定の組織(心臓、胎盤)の核内に特異的に発現し、核に出した。さらにp65の別の分子領域をベイトとして用いた酵母two-hybrid screeningで、ヒトGrouchoファミリー遺伝子(AESおよびTLE1)が相互作用することを認め、転写抑制作用を持つことをヒト細胞で初めて見出した。NF-κBは発生期のbody planにも積極的に関わり、この場合には標的遺伝子(BMP-4やdecapentaplegic homologueなど)の能動的抑制がさらに重要であることがDrosophilaと同様に高等生物でも示されたが、この発見はその理解をさらに一歩進めるものと期待される。他方、NF-κB相互作用因子の同定の過程でp65が53BP2とも結合することを見出した。53BP2はアポトーシス誘導能を持ちNF-κBによりこのアポトーシスが抑制されたことは発がんとの関与を示唆した。 他方、RA治療薬である金製剤がNF-κBを阻害しRA滑膜細胞からのサイトカイン産生を抑制することを示した。また、金製剤はHIV潜伏感染細胞からのウイルス増殖も抑制した。このような結果は、従来の概念からはカテゴリーの異なると考えられる疾患といえども共通の転写因子によって横断的に理解され得ること、しかも一方の疾患で有効な治療法が分子病態を共有する他の疾患に対しても有効な場合があることの実証例といえる。
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