肺サーファクタント蛋白質A及びDによる生体防御の分子機構と臨床応用の開発

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10557058
• 研究機関: 札幌医科大学
• 研究代表者: 黒木 由夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (70161784)
• 研究分担者: 長田 篤雄 ヤマサ(株), 診断薬部, 室長 ; 佐野 仁美 札幌医科大学, 医学部, 助手 (80295344) ; 相馬 仁 札幌医科大学, 医学部, 講師 (70226702)
• キーワード: 肺サーファクタント蛋白質 / コレクチン / 生体防御 / リポ多糖 / CD14 / マクロファージ / 単クローン抗体 / 合成ペプチド

研究概要

肺サーファクタント蛋白質SP-A、SP-D、および、マンノース結合蛋白質(MBP)は、C末端側に糖鎖認識領域(CRD)を有するC型レクチンのコレクチン・サブグループに属する。コレクチンは、複合脂質や肺胞II型細胞と相互作用を有するとともに、マクロファージを活性化して肺の生体防御においても重要な役割を果たしている。本研究は、SP-A/Dの構造と生体防御機能発現の分子機構を解析し、臨床応用の開発を目指すことを目的に遂行された。以下に結果を要約する。
1. ラットSP-AのThr174-Gly194領域をMBP-AのThr164-Asp184領域に置換したキメラ蛋白質はSP-Aの持つDPPC結合能とCa^<2+>依存性GalCer結合能を失い、肺胞II型細胞との相互作用を有していなかったが、MBPの持つPI結合能を獲得していた。
2. Phage display peptide libraryによる解析でSP-A機能を阻止しうる抗ヒトSP-A単クローン抗体のエピトープは、Thr184-Gly194領域であることが判明した。1および2の結果より、SP-Aのアミノ酸174-194の領域が機能領域と考えられ,この領域に相当する合成ペプチドが作成された。
4. SP-Aは、rough型リポ多糖(LPS)に濃度依存性に結合したが、smooth型LPSには結合しなかった。一方、SP-Aは、smooth LPSにより惹起されたTPA分化誘導U937細胞および肺胞マクロファージからのTNFα分泌およびTNFαmRNA発現を阻止したが、rough LPS誘導細胞応答を抑制できず、SP-Aと細胞の前処置により、rough LPSによる細胞応答はむしろ増強した。
5. マクロファージ系細胞に発現するCD14がSP-Aの受容体であることが同定された。
smooth LPSに結合するCD14はSP-A存在下で減少し、rough LPSに結合するCD14はSP-Aによりむしろ増加することが示され、SP-AはCD14と相互作用を有することによってエンドトキシンによる細胞応答を制御していることが示された。

研究成果

• [文献書誌] Sano H: "Analysis of chimeric proteins identifies the regions in the carbohydrate recognition domains of rat lung collectins that are essential for interactions with phospholipids, glycolipids, and alveolar typeII cells." J.Biol.Chem.273・8. 4783-4789 (1998)
• [文献書誌] Pattanjitvilai S: "Mutational analysis of Arg197 of rat surfactant protein A. His197 creates specific lipid uptake defects" J.Biol.Chem.273. 5702-5707 (1998)
• [文献書誌] 黒木由夫: "肺胞表面を覆うサーファクタント-特異蛋白質の」・構造、機能、病態-" 蛋白質核酸酵素. 43. 834-846 (1998)
• [文献書誌] Kuroki Y: "Surfactant proteins A and D : disease markers." Biochem.Biophys.Acta. 1408. 334-345 (1998)
• [文献書誌] Shijubo N: "BAL surfactant protein A and Clara cell 10 kDa protein levels in healthy subjects." Lung. 176. 257-265 (1998)
• [文献書誌] Tsunezawa W: "Site-directed mutagenesis of surfactant protein A reveales dissociation of lipid aggregation and lipid uptake by alveolar type II cells." Biochem Biophys Acta. 1387. 433-446 (1998)
• [文献書誌] Mason R: "A 50 kDa variant form human surfactant protein D." Eur Respir J. 12. 1147-1155 (1998)
• [文献書誌] Sano H: "Pulmonary surfactant protein A modulates the cellular responses to smooth and rough lipopolysaccharides by interactions with CD14." J Immunol. in press. (1999)
• [文献書誌] 黒木由夫: "肺サーファクタント蛋白質SP-AおよびSP-D" 日本臨床. 印刷中. (1999)
• [文献書誌] 黒木由夫: "肺サーファクタントの産生と代謝(呼吸器疾患の分子生物学)" 川上義和、谷口直之、木田厚端 編集: 医学書院, 447 (1998)