Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)はジストロフィン遺伝子の異常から発症する極めて重篤な疾患であるが、その治療法は未だ確立されていない。私たちは、DMD患者でmRNA前駆体のスプライシングを操作することによりmRNAのアミノ酸読み取り枠を修正し、機能的なタンパクを産生させることでDMDの治療ができることを着想し、今回その治療への応用的研究を行なった。ジストロフィン遺伝子のエクソン19内にあるスプライシング促進配列に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドはエクソン19のスキッピングを誘導する。このアンチセンスオリゴヌクレオチドをジストロフィン遺伝子のエクソン20を欠失したDMD患者から得た培養筋細胞に導入した。この導入により、ジストロフィンmRNAからエクソン19の配列が消失するエクソンスキッピングを誘導することに成功した。これは、ジストロフィンmRNAからエクソン19と20の2つのエクソンの欠失をもたらし、患者のmRNAでアミノ酸読み取り枠が回復した。この筋細胞をジストロフィン染色したところ、予想通りジストロフィン陽性細胞が検出された。これは、私たちの提唱する治療法が有効なことを示すもので、実際の患者への投与を促す画期的な成果であった。 さらに、DMD患者の多数が有している遺伝子の欠失のホットスポット付近のエクソンについて、先の治療法が有効か否かを検討するため、スプライシング促進配列の解析を進めた。そして、1つのエクソンでスプライシング促進機能を有している配列が存在することを確認した。したがって、今後スプライシング促進配列の機能を阻害してエクソンのスキッピングを誘導することによる治療の応用性をさらに展開できる可能性が示され、今後の一層の発展が期待される。
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