研究概要 |
トランスグルタミナーゼ3は、分子量が約77kDaのカルシウムおよびチオール依存性の酵素であり蛋白のリジンおよびグルタミン残基を架橋してアイソジペプチドクロスリンクを形成し、トランスグルタミナーゼ1と共に皮膚の角化に非常に重要な働きをする。トランスグルタミナーゼ3はインボルクリン、スモールプロリンリッチ蛋白、エラフィン、シスタチンAがトランスグルタミナーゼ1により架橋されてできる未熟なcell envelope (CE)にロリクリンを大量に付着させることにより、完全なCEを形成する働きがあると考えられている。免疫細胞化学的な検討の結果トランスグルタミナーゼ3は皮膚顆粒層より発現が始まることが知られているが、この発現様式はロリクリンと同じである。皮膚の角化異常性疾患は遺伝性角化症と非遺伝性角化症に大別される。遺伝性角化症に属する疾患としては、遺伝性魚鱗癬、ダリエー病、掌蹠角化症、汗孔角化症など多数の疾患があるが、この中で現在遺伝子レベルでの異常が解明されているのは、水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症、伴性遺伝性尋常性魚鱗癬、葉状魚鱗癬、一部の掌蹠角化症、シェグレンラルソン症候群、先天性爪甲肥厚症などごく一部である。他の遺伝性角化異常症においては、遺伝子レベルでの異常は全く解っていない。近年トランスグルタミナーゼ1の遺伝子異常(即ちポイントミューテーション)により、葉状魚鱗癬が生じることが明らかにされた。トランスグルタミナーゼ3はトランスグルタミナーゼ1と同様CEの形成において重要な働きをするので、トランスグルタミナーゼ3の遺伝子異常がある種の角化異常症の原因遺伝子である可能性は非常に高いと考えられる。我々の研究目的はトランスグルタミナーゼ3遺伝子のノックアウトマウスを作成し,角化異常症の動物モデルを作製することを目的とする。平成11年度の研究目標は、トランスグルタミナーゼ3遺伝子のターゲッテイングベクターの作製であったが,すでにマウストランスグルタミナーゼ3cDNAをmouse epidermis cDNA libraryよりクローニングし、このcDNAを用いて、129SV mouse genomic libraryよりgenomic DNAをクローニングする予定である。今後このgenomic cloneの制限酵素地図を作成し、targeting vectorを作製する予定である。
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