研究概要 |
今年度各種培養ヒト悪性腫瘍由来細胞を用いて、培養上清中の凝固線溶系因子tPA,uPA,TF,PAI-1,uPARをELISA法で検討した。その結果定常状態で、放射線高感受性のU87MG細胞はPAI-1の産生が高く、抵抗性のA7細胞ではPAI-1の産生が前者の約1/4と低かった。逆にuPARは増殖期で、A7細胞で前者よりも約3倍高い結果が得られた。HeLa S3,U87MG,AOI腫瘍については、従来腫瘍局所照射に用いていた無麻酔固定下での腫瘍内の酸素分圧を測定した。いずれの腫瘍も中心部と辺縁部で、温度と酸素分圧に明らかな差があり、特にU87MG腫瘍では中心部の温度は高く、酸素分圧は低く、辺縁部では温度は低く、酸素分圧は高いという結果が得られた。その結果in vitroとin vivoヌードマウス腫瘍の放射線感受性の逆転現象に相関していた因子は、むしろ低酸素マーカーと呼ばれつつあるPAI-1である可能性が示唆された。既に血栓溶解を妨げるPAI-1の血中濃度が高い患者の局所制御率が悪く、かつ遠隔成績が悪いとの報告もある。 一方、昨年度クローニングを始めた新規ヒト遺伝子ヘリケースの全長7037bpに及ぶクローニングが完了し、機能解析を進めRNAヘリケースという機能が固まった段階でBBAに投稿し採択された。現在までDNAヘリケースは6つ発見されているが、最近はDNAヘリケースとRNAヘリケースとの区別が明確にできないというのが現実であり、我々のクローニングしたものがDNA修復に関与する可能性は少なくなく、放射線障害とこの新規ヘリケースとの関連についても解析する必要がある。 平成12年度には、ヌードマウス移植腫瘍でのPAI-1などの発現をRT-PCRで確認するとともに、酸素分圧の変化をA7腫瘍など他の腫瘍でも確認する予定である。またクローニングした新規ヘリカーゼの機能解析も更に進める予定である。
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