研究課題
基盤研究(B)
現代社会において体脂肪の過剰蓄積は糖尿病、血管病等の様々な病態の基盤となっている。体脂肪蓄積による病態の発症は一様ではなく脂肪の蓄積部位、脂肪分布と密接に関連している。すなわち皮下脂肪よりも腹腔内内臓脂肪の蓄積が上記の病態と深く関わっている。本研究の目的は内臓脂肪と皮下脂肪の生物学的差異を分子レベルで明らかにし、臨床に応用しようとするものである。内臓脂肪、皮下脂肪発現遺伝子の大規模シークエンス解析の比較により、皮下脂肪がリボゾーム蛋白や細胞骨格蛋白等の細胞維持に関わる比較的静的な遺伝子を多く発現していたのに対し、内臓脂肪は多くの生理活性物質を含む分泌蛋白遺伝子の発現が優位であった。脂肪組織発現遺伝子の大規模シークエンス解析から得られたadiponectinとDifferential displayにより得られたclone085について、内臓脂肪蓄積、病態との関連において検討した。adiponectinは脂肪細胞特異的な分泌蛋白であるにもかかわらず、体脂肪蓄積、特に内臓脂肪蓄積時に血中濃度が低下していた。冠動脈疾患患者においては著しい血中濃度の低下を示し、動脈硬化の指標として用いうることが示された。本分子は血管内皮細胞への単球接着抑制や、平滑筋増殖抑制などの坑動脈硬化作用を有し、新たな動脈硬化治療法開発への可能性が示された。clone085は血球系の分化誘導因子の一種で、体脂肪過剰蓄積時に特に内臓脂肪において発現増加が認められた。血中濃度測定法を開発し検討したところ、肥満モデル動物で内臓脂肪量の増加とともにclon085産物の血中濃度が増加した。ヒトにおいてもclon085血中濃度は皮下脂肪量とは相関しなかったが、内臓脂肪量と良好な正相関関係が得られ、内臓脂肪量測定のパラメーターとして用いうると考えられた。糖尿病患者では血中085濃度が上昇しており、糖代謝との関連が示唆された。本研究において、新しい内臓脂肪由来分泌蛋白の同定と血中濃度測定系の開発を行い、内臓脂肪蓄積量の診断法の開発、内臓脂肪蓄積時の病態発症の分子機構解明の可能性が示された。
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