研究課題/領域番号 |
10557111
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
杉本 壽 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (90127241)
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研究分担者 |
鍬方 安行 大阪大学, 医学系研究科, 助手 (50273678)
田中 裕 大阪大学, 医学系研究科, 助教授 (90252676)
嶋津 岳士 大阪大学, 医学系研究科, 助教授 (50196474)
塩崎 忠彦 大阪大学, 医学系研究科, 助手 (60278687)
小倉 裕司 大阪大学, 医学系研究科, 助手 (70301265)
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キーワード | 侵襲 / 頭部外傷 / ADH分泌 / 白血球機能 / NF-κB / サイトカインバランス / 脳死 / 臓器障害 |
研究概要 |
侵襲反応において中枢神経・内分泌・免疫系は相互に影響を及ぼしあっているが、その首座は中枢神経にあると考えられる。本研究ではここに焦点を絞り、(I)中枢神経の傷害の有無による、侵襲時の内因性サイトカインバランスと白血球機能変化についての研究、(II)侵襲時の炎症・抗炎症反応のバランス関する研究、(III)脳死時の異所性ホルモン分泌に関する研究、を行った。 (I)中枢神経傷害を伴わない急性病態では、血中の炎症性サイトカインが上昇し、白血球の活性酸素産生能、貪食能などの機能は亢進した。一方白血球のアポトーシスは抑制された。中枢神経傷害を伴う場合、損傷局所(脳)で、炎症性サイトカインが産生され、髄液中の濃度は血中の数十倍から数百倍の高値であった。一方、抗炎症性サイトカインは、血中の濃度が髄液中の濃度を上回った。この結果は、中枢神経傷害を伴う侵襲時には生体は抗炎症状態に傾いており、免疫能の低下や易感染性の原因となることが示唆された。脳死状態では中枢神経系の全身への制御が消失し上記の変化は完全に逆転した。すなわち抗炎症性サイトカインが有意に低下し、炎症性サイトカインが著増した。また白血球機能も亢進し、生体は臓器障害を生じた。一方、グルココルチコイド濃度は低下し生体は過剰炎症状態になった。 (II侵襲時の生体の炎症・抗炎症状態を把握するために、炎症反応蛋白を誘導する白血球細胞核内転写調節因子のNF-κBをフローサイトメトリーを用いて定量する系を確立した。急性病態(重度外傷・敗血症)では、核内NF-κBが著明に上昇した。この変化は白血球活性酸素産生能と相関し、白血球が活性化された炎症優位の状態と考えられた。熱ショック蛋白の研究では、外傷、敗血症時には白血球のHSP27、60、70、90の発現が亢進した。また、HSPを強制発現した時には活性酸素産生が亢進しアポトーシスは抑制され、白血球の機能変化にHSPが重要な役割を果たしていることが示唆された。 (III)脳死後に血中ADH濃度が正常範囲に保たれる症例を我々は経験する。この理由として、下垂体後葉機能が部分的に残存しているものと考えていた。我々はこのような症例において、末梢血白血球における遺伝子発現をPCR法で検討し、ADHの遺伝子が白血球細胞に誘導されていることを確認した。この結果は免疫機能を司る白血球に、臓器におけるホルモン分泌障害を補助する機能が存在する可能性を示唆するものである。
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