研究概要 |
転移の制御は癌治療の大きな課題のひとつである。MRP-1は、Transmembrane 4 superfamily(TM4SF)に属しており 前立腺癌の転移抑制遺伝子としてクローニングされたKAI1/CD82もこのファミリーに属し、その機能はMRP-1/CD9と類似する。乳癌、肺癌、大腸癌では、この両者の遺伝子レベル・蛋白レベルでの減弱、喪失がその腫瘍の悪性度や予後を反映していることが明らかになった。そこで我々はまず、このMRP-1/CD9及びKAI1/CD82の遺伝子導入をアデノウイルスを用いて行った。マウスの肺自然転移株BL6を用いたin vivoの実験では、rAd-MRP-1/CD9のみでも85%の肺転移阻止率をもたらすことができた。また、平均生存期間においてもrAd-MRP-1/CD9投与群は105.6日に達し、対象群の69.7日に比べて有為に予後の改善をもたらした。そこで、更にrAd-KAI1/CD82による単独療法を試みた所、肺転移阻止率は70%に過ぎなかったが、この二者の併用療法では、実に92%の肺転移阻止率を達成し、非常に有効であることが判明した。このTM4SFは、ファミリー自体の他のメンバーやインテグリンファミリーと複合構成体を形成し、細胞接着や運動、シグナルトランスダクションなどに関わっている。そこで、更にこのTM4SF・インテグリン複合構成体そのものを抗体を用いて修復することで癌転移の抑制を試みることにした。インテグリンの抗α3,α4,α5,α6、β1抗体にMRP-1/CD9のcDNAを結合させて、トランスフェクションを試みた。しかしながら、培養細胞系においても細胞膜表面に発現してくるMRP-1/CD9はアデノウイルスを用いた場合に比べ、5%以下にすぎず、貪食能の強い特殊な細胞を用いないとイムノジーンによるトランスフェクションはかなり困難であると考えられた。これらのことを踏まえて、更なるイムノジーン療法を考案していきたい。
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