平成12年度の研究成果として、動物実験の結果、以下のことが明らかとなった。(1)S-DEX50-5Hは腹腔内での滞留性に優れる一方で、全身の血液中への移行は極めて徐々であることが明らかになった。この薬剤動態は、腹腔内ではその薬理学的効果が非常に高い反面で、全身的にはその副作用が著しく低くなることが期待できる。(2)多くのS-DEX誘導体の中から将来的に臨床応用が期待できる化合物としてS-DEX50-5Hを開発した。S-DEX50-5Hは、マウスにおける急性毒性試験で極めて安全に使用が可能であることが明らかになった。(3)S-DEX50-5Hは癌の腹膜転移の好発部位である乳斑の部位における癌細胞の接着・着床を阻止するのみならず、手術操作によって傷害された腹膜部位に対する癌細胞の接着・着床をも有効に阻害することが明らかとなった。(4)S-DEX50-5Hは癌細胞の接着を阻害するのみならず、癌細胞の細胞回転をブロックしてG1相に留めるいわゆるG1ブロックを引き起こすこと、またG1ブロックは接着発育型の細胞のみならずP388などの自由細胞で増殖する細胞でも起こること、これらの細胞は接着因子や細胞内骨格を作成する遺伝子が抑制され、またサイクリンやサイクリンカイネースの遺伝子も抑制されること、しかしアポトーシスやネクローシスは引き起こさないこと、などがあきらかになった。今後は、このS-DEX50-5Hの臨床応用を念頭において検討を加えてたい。具体的には、(1)手術に併用した場合に腸管吻合部などの手術操作を加えた部位の癒合や感染性に関する安全性など。(2)薬剤の性能や副作用に影響を与えないような滅菌法の開発。(3)さらに長期にわたって保存した場合にその機能が安定であるか否か、またもしも不安定な場合にはその保存法などについても検討する予定である。
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