研究概要 |
(1)酸性多糖類S-DEXの腹膜転移の予防効果と臨床応用における問題点の解決について検討した。(A)まずマウスの腹腔内にS-DEX水溶液を投与し、体重変化、中毒症状、LDx量の計測身体各臓器の病理学組織学検討,臓器重量等を検討した。投与後の体重減少は一時的で1週間以内に投与前の値に回復した。中毒症状は軽微であった。LD10は0.21mg/g、LD50は0.34mg/g、LD90は0.53mg/gであった。病理組織学的検討では、大腸粘膜の出血性炎症所見を認めたが、これも観察期間の終了とともに治癒していた。(B)S-DEXを家兎の腹腔内に投与してその副作用を検討した。臨床的投与量を十分に上回る0.01mg/kgの投与量における臨床検査に対する影響を検討した。血液臨床検査や末梢血液像のデータに異常を認めなかった。(C)次にラットを用いて腸管吻合部に対する安全性を検討した。ラットの小腸を端々吻合し、この吻合部にかかる破裂圧と縫合不全の頻度によってS-DEXの腸管吻合に対する悪影響を評価した。吻合部を外科用合成接着剤により被覆すれば、吻合部分に対する悪影響は完全に防止されることが明らかとなり、S-DEXは安全に投与されることが明らかになった。(2)マウス移植癌B-16メラノーマ細胞とヒト胃癌細胞株をもちいて、S-DEXの遺伝子レベルおよび蛋白レベルでその作用機序を解析した。cDNAマイクロアレイを用いて、S-DEXを作用させた後のmRNAの強弱を経時的に測定した。その結果、(A)細胞周期関連の遺伝子では、p-15、CDK4などの経時的増強、また細胞接着関連遺伝子ではIntegrinα6やIntegrinβ1、ICM-2の経時的減弱を認めた。(B)蛋白レベルでは、Westein blotでp-15の経時的増加とIntegrinβ1の経時的増加を認めた。このように、mRNAレベルと蛋白レベルでもS-DEXは癌細胞の細胞周期回転の抑制と細胞接着の阻害作用を示すことが明らかとなた。これらの事から、S-DEX腹腔内投与は安全に腹腔内に投与できる薬品となりうることが示唆された。
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