研究概要 |
本年度はラット "戻し心移植" モデルに見られる心慢性拒絶反応の病因・形態を,昨年開発した定量的 RT-PCR 法を用いて解析し次のことを明らかにした. 1 : 心移植後3-5日の間に移植心にT細胞が浸潤し,以後2ヶ月に渡って活性化状態を保ち,IFN-γ,Fas ligand 等の mRNA を発現する.このT細胞浸潤がなければ、血管病変は発生しない. 2 : 心慢性拒絶反応を発生する移植心にはマクロファージの持続的浸潤,活性化を認めるが,T細胞浸潤のない移植心ではマクロファージの浸潤・活性化が一時的で,血管病変は発生しない. 3 : 移植心内でT細胞活性化が起こっている場合のみマクロファージが持続的に移植心へ浸潤するので,移植心への単球浸潤阻害がT細胞活性化を起こした移植心での慢性拒絶反応の進行を阻害する可能性のあることが明かとなった. これらの結果は昨年学会発表を行い,現在論文投稿中である. 一方,心慢性拒絶反応の治療手段として,種々の機能分子をコードする遺伝子の生体内導入が有効であることが期待されるが,その手法上の基盤として正常ラット心,虚血傷害ラット心あるいは圧負荷による不全ラット心に対して,β-adrenergic receptor や Hepatocyte growth factor の生体内遺伝子導入が可能であり,各々移植心に対して有効な保護効果あるいは機能向上作用を示すことを実験的に明らかにし,論文発表を行った. 今後は研究前半部で明らかになった心慢性拒絶反応の病態に即した分子を標的とし,後半部で確立した手法を用いて,慢性拒絶反応の治療開発を試みる予定である.
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