研究概要 |
近年、nitric oxide(NO)が中枢および末梢神経系において重要な情報伝達物質として作用していることが明らかにされ,さまざまの生理機能や疾患の病態と深く関与していることが示されている。一方、我々はNOの消去作用を有する安定で低毒性の有機化合物(imidazolineoxyl N-oxides;PTIO)を見い出し様々な生理や病態の解析を動物実験により解析を行ってきた。下部尿路機能について、尿道の弛緩反応にはNOが重要な神経伝達物質であり,PTIOはNOを消去することにより尿道を収縮させ、尿失禁の治療薬として有効である可能性を指摘してきた。今年度はヒト尿道・膀胱平滑筋を用いて以下の点について検討を加えた。 1)ヒト尿道・膀胱平滑筋を用いてnitrergic neuronからのNO放出量およびprejunctional adrenergic neuronからのnoradrenalineおよびcholinergic neuronからのacetylcholine放出量について検討した。膀胱腫瘍により摘出した尿道、膀胱から平滑筋条片を作製してこれを筋浴槽内に固定し、等尺性トランスデューサーを介して張力変化を記録した。平滑筋条片に経壁電気刺激(EFS)を行い弛緩反応を観察するとともに、平滑筋条片に臓器用透析プローブを貫通させbufferを潅流させながらEFSを行い、microdialysis法を用いて回収した透析液内のNOx量をHPLCで分離し測定した。また尿道平滑筋からのnoradrenalineおよび膀胱平滑筋からのacetylcholine放出量に対するPTIOおよびL-NNA投与の影響について検討した。尿道平滑筋においてPTIOは用量依存性にNOを消去し弛緩反応を抑制し、尿道平滑筋からのnoradrenalineの放出量を有意に促進させた。また膀胱平滑筋においては、PTIOはその弛緩反応やacetylcholine放出量には影響を及ぼさなかった。 2)PTIOをラットに経口および静脈内投与して膀胱内圧測定、尿道内圧測定を行い、PTIOが膀胱・尿道機能に対していかなる影響を及ぼすかを検討した。PTIOは尿道閉鎖圧を用量依存性に有意に上昇させるが、経口投与の場合には経静脈投与と同等の効果を得るためには約10倍の投与量が必要であった。 3)安全性検査としてラットに単回および反復投与しPTIOの毒性試験を行った。10mg/kgの単回投与および0〜5mg/kgの4週間反復投与にても有意な毒性はみられなかった。また抗原性検査としてラットに5mg/kgのPTIOを10回投与後、0.3および3mg/kgを単独および卵白アルブミンと皮下に3回投与したがアナフィラキシー反応は観察されなかった。
|