研究概要 |
この研究においては、我々が新規に見出したnitric oxide(NO)消去剤であるcarboxy-2-phenyl-4,4,5,5,-tetramethylimidazoline-1-oxyl 3-oxide,(cyboxy-PTIO)を尿失禁治療薬として開発するにあたり、この薬剤の薬理学的特性と全身臓器に対する作用について動物を用いて検討を加えた。 家兎の摘出尿道平滑筋を用いた機能実験で、フェニレフリンにより前収縮させた平滑筋条片は経壁電気刺激により弛緩反応を示すが、この弛緩にはradical NOだけではなくNO関連物質も関与していることが示された。また尿道の収縮と弛緩反応をそれぞれ司る神経であるアドレナリン作動神経とNO作動神経の間にはフィードバック機構が存在していることが判明した。つまり、アドレナリン作動神経からアドレナリンの放出量はNOにより抑制的に調節されており、NO作動神経からのNOの放出量はNO作動神経の神経終末に存在するα1受容体により抑制的に、α2受容体により促進的に調節されていることが判明した。また、家兎の培養尿道平滑筋細胞を用いた実験から、神経からだけではなく、尿道平滑筋自体からもNOが放出されていることが明らかとなった。 ラット、家兎を用いたCarboxy-PTIOの静脈内投与は、血圧、脈拍数などの循環動態、気道平滑筋などの呼吸機能、消化管の運動や腎機能に対しては有意な作用を示さず、ラット尿道機能に対しては膀胱容量、排尿圧を変化させない濃度で、尿道閉鎖圧を有意に上昇させた。静脈内投与されたcarboxy-PTIOは24時間で約80%が尿中に、20%が便中に排泄され、単回および反復投与にいても各組織内への蓄積は観察されなかった。さらに、ラットを用いた実験から、この薬剤によるアナフィラキシー症状は認められなかった。 実験的脊髄損傷ラットにおいて、Carboxy-PTIOの静脈内投与は膀胱容量、排尿圧、排尿回数を変化させずに、尿道閉鎖圧を上昇させ、尿失禁回数を減少させた。 以上の結果から、Carboxy-PTIOは尿失禁に対して有用な薬剤であると考えられた。しかし、臨床応用にあたってはヒトに対する安全性と有用性をさらに詳しく検討する必要があると考えられた。
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