男子不妊症の診断法と治療法の開発を目指し、基礎・臨床の両面から研究を行い、次のような知見が得られた。 臨床的研究 : 聖マリアンナ医科大学倫理委員会承認のもとDNA収集を行い、男子不妊症患者約600名・妊孕能の確認された男性360名・健常若年男性320名のジーンバンクを構築した。このバンクを用いて以下の実験を行った。(1)Semenogelin(Sg)遺伝子のDNA配列を検討したところ、患者5名と正常人8名で、第2エクソンの一部に欠失が見られた。この欠失と精液所見に相関はなかったが、蛋白機能に差がある可能性があり、変異型蛋白を解析中である。また、SNPを検出するために有用なDNA二次元電気泳動法(TDGS)によりSg遺伝子の検索を行っているが、現在のところ技術的な問題もありSNPは確認されていない。(2)精子形成能に重要であるとされるY染色体上の3つのDNA多型分析により、男性を4つのハプロタイプに分類し、精液所見との関連を検討した。その結果、各タイプ間で精子濃度に差があることを明らかにした。 基礎的研究:(1)バキュロウイルスー昆虫細胞系を用いた組換え型Sg(r-Sg)蛋白発現系、そして高純度・高活性のSg蛋白を分離する精製法の確立に成功した。このr-Sgを抗原として抗体を作製し、天然型Sgやその分解産物とも特異的に反応することを確認した。(2)Sgの機能に関する研究として、精子capacitationに対する影響を検討したところ、Sgは濃度依存性にヒト精子のcapacitationを抑制することが判明した。その作用機序はO_2^-の生成抑制であり、Sgの分解産物も同様の作用を持つことなどを明らかにした。(3)作製した抗r-Sg抗体を用い、精漿成分を特異的に検出することを目的としたアッセイ系の開発に成功した。今後更に感度および特異性を高めるよう開発を進める。
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