研究概要 |
着床前遺伝子診断は疾患遺伝子の診断を原則とすべきである。そこでDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)を対象として系統的診断法を考案、診断精度を検討した。検体は罹患児・正常児の各羊水細胞および体外受精の余剰卵をインフォームドコンセントを得た上で検討に供した。マイクロマニュビュレーター下に単一細胞(割球・極体・羊水細胞)を採取、ジストロフィン遺伝子のDMDホットスポットに対して、Nested PCRによる欠失分析を施行すると同時に、割球のX・Y・18番各染色体を対象としたFISH法による異数体診断も同時に施行した。その結果、正常単一細胞からのexon8,exon44,exon45,exon51に対する各検出率は85%,90%,85%,80%であり、疾患単一細胞の各検出率は、80%,85%,80%,75%であった。以上より非疾患胚を正常と診断する精度は、割球のみでは約80%、偽陽性率は5%、疾患卵を異常と診断する精度は割球のみでは約80%、偽陰性率は2%であった。また割球と極体診断を併用することにより診断精度は72%と低下するが,偽陽性率・偽陰性率は0.1%まで減少しえた。 一方、胎児の構造的あるいは機能的異常の早期診断のため、妊娠12週以降の妊婦に対して経腹法ならびに経腟法により超音波断層法およびパワードプラ法を施行し、胎児頭部のfetal angiographyを試みた。胎児が頭位であった症例に限ると、経腹法に比べ経腟法ではより高率に明瞭な胎児脳構造および血管構築の観察が可能であった(25%vs75%)。また、経腹法で観察が困難であった脳内静脈系は経腟カラードプラ法あるいはパワードプラ法で比較的容易に描出が可能であった。また血管構築の異常例であるガレン静脈瘤の症例では、経腟法により病変部位の同定が容易であった。概して経腟法は経腹法に比べ胎児頭部のfetal angiographyに適した方法であると考えられたが、胎位が頭位以外では描出不良となる。妊娠初〜中期では胎児は頭位以外の胎位をとることも多いので、本法を胎児異常発見のスクリーニングに用いるには、至適施行時期に関する検討を要するものと考えられた。
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