研究概要 |
カニクイサル5頭を用いて、周辺部網膜全周切開による中心窩移動術を施行し、術後経時的に眼底写真、蛍光造影検査、各種網膜電図を施行し、術後の網膜機能の回復過程を検討した。また、手術手技についても検討を加えた。サル眼は、ヒト網膜と同じ特徴を有しており、実際のヒト眼における手術と同様に行うことができた。中心窩移動術においては、意図的網膜剥離を全範囲にわたり作製する必要があるが、サル眼においては網膜接着が強く、網膜剥離作製時に網膜色素上皮を障害し、術後に網膜色素上皮の過形成、網膜視細胞の障害を2次的に生じやすかった。カルシウムを含まない潅流液を使用することにより生理的な網膜接着力を弱め、手術操作を比較的容易にすることができた。術後経過における網膜機能の回復をフラッシュ、桿体、錐体、フリッカーの各網膜電図を用いて検討した所、術後1ヶ月では、フラッシュ、桿体、錐体、フリッカーの各網膜電図の回復は、それぞれ術前の測定値の 41%,15%,22%,31%と低下していたが、術後2ヶ月になると、それぞれ術前の測定値の54%,49%,34%,43%まで回復した、術後3ヶ月においては、2ヶ月後とほぼ同様の値を示し、網膜電図上は、少なくとも術後2ヶ月間は網膜機能の回復を待たねばならないことを明らかになった。さらに、術3ヶ月後に眼球を摘出し、電子顕微鏡にて網膜を観察したところ、中心窩陥凹を認めるものの、中心窩視細胞の部分的な消失と黄斑上膜の存在が明らかになった。 以上の結果より、中心窩移動術は、網膜に与える侵襲は比較的強いと考えられるが、今後、生理的網膜接着力を弱めるなどの手術手技の改良により、手術侵襲を軽減し、黄斑疾患の治療に役立てたい。
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