実験にはCB57BL系マウス(生後0〜3日)を用いた。エーテル麻酔下で除脳後、脳幹を摘出し、95%O_2-5%CO_2で飽和した人工脳脊髄液で潅流した記録槽に移し、三叉神経運動根、顔面神経ならびに舌下神経からガラス吸引電極を用いて神経活動を記録した。同標本を用いて脳幹の切断と、活動に対応して細胞に取り込まれる蛍光色素sulforhodamine101による細胞標識を行い、リズム形成機構の局在を検討した。また一部の実験では、顎顔面口腔器官を神経連絡を保ったまま摘出した脳幹標本を用いて、摘出脳幹標本で得られた神経活動がどのような運動に対応しているかを検討した。その結果、(1)NMDAの投与によって舌下神経だけでなく三叉神経、顔面神経にもリズム活動が誘発され、(2)末梢器官付き摘出脳幹標本でNMDA投与により、舌ならびに下顎に吸綴運動に類似したリズム運動が観察された。摘出脳幹標本では、(3)三叉神経-顔面神経間および橋-延髄境界部で脳幹を前頭断後も、NMDA投与によって三叉神経、顔面神経および舌下神経にそれぞれ別個にリズム活動が誘発されること、(4)正中切断後もNMDA投与によって左右舌下神経からリズム活動が誘発されること、(5)三叉神経感覚核を含む脳幹外側部、孤束核を含む脳幹背側部の除去後もNMDA投与によって舌下神経からリズム活動が誘発されることを観察した。(6)NMDA投与によって、舌下神経にリズム活動を誘発した際に、sulforhodamine101で標識されたニューロンは巨大細胞性網様核を含む延髄腹内側部に多くみられた。以上の所見は、NMDA投与によって誘発される吸綴様リズム舌下神経活動のリズム形成機構が延髄の内側部かつ腹側部に存在することを示し、リズム吸綴様活動を舌下神経から観察するために最小限必要な神経細胞集団を含む脳幹ブロック標本が光学的測定法を用いた研究にも応用可能であることが示された。
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