研究概要 |
ブラキシズムは、歯科臨床においてさまざまな問題を引き起こすと経験的に考えられているが、その発現のメカニズムについては不明である。本研究ではブラキシズムと大脳基底核の活動性の関係を実験的に明らかにするために、2つの面から取り組んだ。ひとつめは、動物実験においてブラキシズムを誘発することを目的として、大脳基底核の電気刺激および破壊を行った。ふたつめは、大脳基底核が口顎運動機能の遂行に対して、どのような役割を担っているかを知る目的で大脳基底核と咀嚼運動との関係を調べた。前者の実験に関しては、被殻に対する電気刺激および破壊のいずれによっても実験的なブラキシズムを引き起こすことが本研究ではできず、今後の成果に期待するところである。後者の実験から、咀嚼運動と大脳基底核あるいは黒質-線条体系のドーパミンとの関係において以下のような成果が得られた。(1)食物摂取から嚥下に至るまでの一連の咀嚼はstage I,IIa,IIbの3つの過程を順に移行し、それぞれの下顎運動パターンが各過程において変化することが知られている。咀嚼のstage IIa中に被殻に電気刺激を与えると、顎運動パターンの変調を引き起こすことが明らかとなった。この結果から、大脳基底核は咀嚼の進行に伴う顎運動パターンの変更に関係することが示唆された。(2)咀嚼中にウサギ被殻におけるドーパミン量の変動を検索した結果、咀嚼中はドーパミン量が増加していることが明らかとなった。さらに、被殻腹側部に投射するドーパミンニューロンを傷害して、摂食行動を観察すると、取りこみ中の行動に変化が認められた。これらの結果から、摂食行動、特に取り込み時の行動に何らかの影響をおよぼしていることが示唆された。 本研究では、口腔機能遂行に対して大脳基底核が役割を担っていることを示唆する結果が得られたが、今後、臨床的研究を含め、ブラキシズムの発現機構の解明に、本研究の手法・結果が役立つことを期待する。
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